レイ・ブラッドベリが好きだ。
「華氏451度」「火星年代記」で著名な米国のSF作家で、私のフェイバリットはなんといっても「万華鏡」。わずか16ページの短編小説だが、初読からそれなりの時間を経た今でも心の片隅を占めており、折に触れて読み返している。
舞台は近未来。ロケットが突然の流星に襲われ、12人の宇宙飛行士たちは無限の宇宙へと投げ出される。宇宙服こそ着ているが、宇宙船はびりびりに引き裂かれ、どうあがいても生還の見込みはない。
船を失い推進装置も持たない彼らは、無線通信で最後の会話を交わしながら、慣性に逆らうすべもなく散り散りになってゆく。ひとりは彗星の引力に引かれて何処かへ、ひとりは月へ、ひとりは冥王星へ、そしてひとりは地球の大気圏へ……まるで万華鏡のようにきらめいて消えてゆく。
ストーリーの開始時点で、既に未来の可能性は完膚なきまでに喪われ、冷たく閉ざされている。
どうしようもなく取り戻せなくなってしまった地点/時点から、幕を切って落とされる物語。素性からして悲劇であるはずのそのような物語に、ひどく心を奪われてしまう原罪を、どうやら私は背負っている。
萩尾望都「トーマの心臓」、米澤穂信「ボトルネック」、トム・ゴドウィン「冷たい方程式」、山田鐘人/アベツカサ「葬送のフリーレン」、シオドア・スタージョン「海を失った男」、インドネシア発のインディーゲーム「When the Past was Around 過去といた頃」…。
喪ってしまったものと、どのように向き合うか(あるいは、どのように向き合わないか)。そもそも喪われたものは何だったのか。過去と未来が曖昧に入り混じった時間をさまよう物語に、音楽の世界でも出会うことがある。
今回そのような「既に喪われてしまった物語」を抱えた音楽のプレイリストを編み、ひいては自身の胸の内にある喪失と向き合った。顧みれば、私にとっては「不可逆」という要素もまた、切なさを構成する因子なのだろう。
プレイリスト(Spotify)
01.ひこうき雲 / 荒井由実
02.ウチは泣きそーです / The Otals
03.舞い散る灰の (feat. kidlit) / 大嶋啓之
04.愛麗絲晚安 / 守夜人
05.グッバイ・レイディ / 杉本清隆
06.Hurts / Beachside talks
07.After / For Tracy Hyde
08.Nine Point Eight / Mili
09.空色メロディ / 小林しの
10.さよなら、涙目 / Kitri
11.愛のまま / 花譜 & 岸田繁
12.Light song / haruka nakamura & urara
13.ICO - You were there - / 大島ミチル
14.When the Past Was Around / Masdito Bachtiar
文・セレクター: 市村 圭(音ゲーライター/miobell records)