Now and Here

 が大合唱する8月の灼熱の暑さの中、この文章を書いている。もうすぐお盆。特に2025年は大好きなアーティストの訃報がSNSに流れることが多いように感じている。そのたびに追悼の言葉を心の中で唱え、そっとターンテーブルのスタートボタンを押す。いつにも増して美しく、でも切なく聴こえるメロディー。心に響くギターリフ。仲間の作品に参加して弾いたピアノの一フレーズだけでも泣けてくる。

もうライブでその息遣いを感じることも、新曲を聴くことも叶わないという無力感が襲う。あのとき見ておけばよかったという後悔も少なくない。Brian Wilson も João Gilberto も遂に見る機会を失ってしまった。しかし残してくれた音源はこれからも、聴き続けることができる。神様の気まぐれか、Sparklehorse の"Bird Machine"のように、未発表曲がいきなりリリースされ、違う世界線からの贈り物を不意に受け取った感覚に陥ることも嬉しい誤算だ。亡くなった人の時計は止まっても、時間は経過し音楽も物語を紡ぎながら前に進む。COVID-19で亡くなった Adam Schlesinger の Fountains Of Wayne も、2025年に来日を果たした。Heavenly はDr.の Mathew の死により活動を休止。悲しみは癒えることはないが、時を経て2025年に復活するというニュースも楽しみだ。

二度と交わらない線が音楽で交差することもある。2005年、プラネタリウム「暗やみの色」の楽曲を rei harakami が担当し、谷川俊太郎は「闇は光の母」という詩を書き下ろした。その詩を原田郁子が朗読した。rei harakami 没後10年に際して制作された"いまここ" (原田郁子)は会うことが叶わなかった rei harakami と谷川俊太郎が楽曲の中で出会っている(谷川俊太郎も残念ながら鬼籍に入られた)。このことを知って聴いたとき、より一層、切なさが増した。音楽は死者を弔う鎮魂碑にもなる。Homecomings の"torch song"は悲惨な事件への思いを歌った楽曲で『青い鳥よ この歌を運んでくれないか 背伸びじゃ届かないあの場所へ』というフレーズに涙する。

残された宝物のような楽曲を聴くと切ない気分にもなるが、このサブスク時代、何の前知識もなく楽曲に触れる人もいるだろう。この夏、miobell recordsからリリースされた"BLUE TENTION LP #bt20250725"収録の黒沢健一も、2016年に他界されている。L⇔R時代の楽曲のセルフカバーを聴いて、L⇔Rを知らない世代にも届くとよいなと、思う。



プレイリスト(Spotify)
01.Intro / レイハラカミ
02.ekot / スケッチ・ショー
03.Days of May / naomi & goro
04.One Note Samba / セルジオ・メンデスとブラジル'65
05.Chega de Saudade (2021 Remaster) / ジョアン・ジルベルト
06.Orange Crate Art / ブライアン・ウィルソン
07.Look Around / ロジャー・ニコルズ & The Small Circle of Friends
08.Goodbye to Romance / オジー・オズボーン
09.Lady-O (Remastered) / Judee Sill
10.Death with Dignity (Demo) / スフィアン・スティーブンス
11.Evening Star Supercharger/ Sparklehorse
12.アイ・ノウ・ユー・ウェル / ファウンテインズ・オブ・ウェイン
13.Cool Guitar Boy / Heavenly
14.Tiny Tiny Tiny / Couple
15.シトラス / advantage Lucy
16.ブルーを撃ち抜いて / L⇔R
17.torch song / Homecomings
18.いまここ / 原田郁子



文・セレクター: tarai(DJ)

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