「僕の名前はルカ 2階に住んでるんだ」と歌い出すこの曲は、「児童虐待」について歌っている。来日して『夜のヒットスタジオDELUXE』に生出演したスザンヌが歌う前に、司会の古舘伊知郎がそう曲を紹介したことで、そのことを知った。彼女がアコースティック・ギターの優しい音色を中心とした柔らかい演奏と共に歌い出すと、テレビ画面には歌詞が映し出された。強く激しく訴えるわけでもなく、滑らかなメロディに乗せて淡々と歌っていくスザンヌ。終盤、「Just don’t ask me what it was」(何があったのか訊かないでほしいんだ)と繰り返し歌うサビのメロディが帰結せずに、再び「ルカ」が自分の身に何が起こっているかを歌うくだりに、一瞬だけ感情が露わになる気がして、心がギュッと締め付けられた。自分がそうした経験をしていたわけではないし、身近にそういう社会問題があったわけじゃない。ただ、音楽によるメッセージが胸に突き刺さった初めての曲が、「ルカ」だった。そしてそれを日本語訳の歌詞でしっかりと届けた音楽番組の気骨のある姿勢には、今もおおいに影響を受けている。