旅愁(帰路の車窓から見るカラスについて)

 の好きな「切なさ」は、旅愁や郷愁など、旅先で感じるものである。

 中でも、旅先から帰る夕方、特急列車の窓から外を眺める時に感じる切なさが好きだ。楽しかった旅先から帰る寂しさに、日が暮れるのに従ってだんだん見えなくなる景色も重なって、旅という非日常からフェードアウトしていく時間だからだ。

 少し怠い身体を窓側に傾けて眺める車窓からは、山並みや田園風景が目に入ることが多い。基本的にぼんやり眺めているだけなのだが、大きい川が見えたら川の名前を調べてみたり、一面の田んぼの中に時々交じるこんもりした小さい森を「神社かな?古墳かな?」と考えてみたりするのも好きである。

 野鳥好きの筆者としては、風景の中に鳥が見える瞬間はさらに好きだ。一斉に飛び立つムクドリや、なぜか低い場所にとまっているトビ、田んぼに突っ立っている(ように見える)白いサギ(おそらくコサギ)など、普段よく目にする鳥でも車窓から見られた時は一味違った嬉しさがある。

 そんな車窓からの風景のうち、最も好き、かつ切なさを掻き立てられるのは、夕暮れ時に数羽のカラスが山側に向かって飛んでいく様子だ。
 旅先から家に帰る自分と、ねぐらの山に帰るカラスが重なるのと同時に、列車に乗ってかなりの速さで移動している自分とその地に住むカラスがすれ違うことに不思議な縁を感じるから好きなのだと思う。
 カラスと一緒に帰るこの一瞬は、童謡「夕焼けこやけ」一番の歌詞とも重なって、幼少期の公園や友人の家からの帰路のことまで想起させて、さらに切ない気持ちになるのである。

 車窓の外はあっという間に暗くなり、特急列車は東京駅や新宿駅に着く。そこから自宅までは、普段の通勤時間と何ら変わらぬ喧騒の中を帰ることになる。
 家に帰り、お土産を並べたり服を洗濯したりしながら思い出すのは旅先のことで、帰路の車窓のことではない。それでも、非日常と日常の間のこの「切ない」時間は、私にとっては無くてはならない大切な時間である。

 さて、プレイリストには、旅にかかわる、または夕方から夜の時間帯に関連する音楽の中から好きなものを10曲選んだ。
 私にとっての切なさが凝縮された曲なので、童謡の「夕焼けこやけ」もねじ込んでいる。17時に防災無線からこの曲が流れる地域にお住まいの方は毎日聴いているかもしれないが、久しぶりに歌詞付きでゆっくり聴いてみてほしい。
 (余談だが、「夕焼けこやけ」の歌詞は一番も二番も大好きだ。いつ聴いても、夕方から夜に移り変わる時間帯の人間と野鳥の暮らしを優しい言葉で綴ったよい詞だなあと思う。)




プレイリスト(Spotify)
01.山口百恵 / いい日旅立ち
02.斉藤和義 / 郷愁
03.藤井風 / 帰ろう
04.サカナクション / ミュージック
05.NHK東京児童合唱団 / 夕焼けこやけ
06.フジファブリック / 若者のすべて
07.クラムボン / 夜見人知らず
08.ASIAN KUNG-FU GENERATION / アフターダーク
09.μ's / 輝夜の城で踊りたい
10.サカナクション / ナイトフィッシングイズグッド



文・セレクター: IW(研究者)

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

シェアしてね
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!