長く続いた季節がやがて終わりを迎えるとき

 年の6月はほとんど雨が降らなかった。暖かい春から爽やかな風が吹く初夏へと切り替わるもっとも快適な時期は一瞬で過ぎ去ってしまった。夏が来るのがどんどん早くなり、昔と比べると暑さのピークが長く続いている。去年はなかなか秋が訪れないまま急に寒くなり、冬の実感もなくクリスマスの準備が始まった。四季の境目とそのバランスが曖昧で、春夏秋冬が大雑把になっていくのを感じる。できれば季節の終わりをちゃんと味わいたい。朝の空気の湿度や、昼間の日差しの高さ、夕方の風の向きの違いを肌で感じたい。昨日と今日の区別もなく日々繰り返される生活のなかで、街の匂いや小さな季節の変化にはせめて敏感でいたいと思う。うだるような暑さも、凍えるような寒さも、不思議なことにしばしお別れだと思うとなぜか急に愛おしくなるもので、鮮やかな思い出として胸の奥に深く刻まれていく。似たような夏はまた訪れるけれど、見つめる景色の角度や感じ方、そばにいる人は多分もう違っている。万物は流転する。あらゆる物事は変化していく。移りゆく季節に自分を重ねながら、そんなことをぼんやりと感じていた。

 好きな曲が終わる瞬間は夏の終わりのようだ。いつも少し寂しい。目の前に広がっていた鮮やかな世界が色を失い、音の余韻を纏った静寂のなかで佇むあの切ない時間。獲得と喪失を繰り返すことで生じる弱い痛みのような感覚。途切れることなく曲を繋いでいくDJや、リピートされるプレイリストにずっと浸っていたいけれど、それだって永遠には続かない。パーティーはいつか終わるし、私たちの心や体もゆっくりと変化していく。いつまでも同じではいられないのだ。次の場所へと動き出すために立ち止まり、過ぎ去った眩しい時間を少しだけ噛み締めてみる。時間の経過とともに新しい何かが生まれては消えていく。そのたびに何度も魅了され、満たされ、また傷ついて、そのうちいつか忘れてしまうかもしれない。忘れてしまわないように、その小さな悲しみを誤魔化さず受け入れる。切なさから目を逸らさずに、かつて存在した美しい風景を思い出し、見えないものをじっと見つめる。そこにいたこと、感じたことの積み重ねが人生に深みをもたらすのだと信じたい。どんなものにも終わりがあって、変化していくからこそかけがえのない時間なのだと。

 長く続いた季節がやがて終わりを迎えるとき、何を手放し、何を見つけて、何を思うのだろう。また新しい音楽に出会えているだろうか。



プレイリスト(Spotify)
01.Club Sentimental,Vol.3 / DJ Python
02.Let Me Know / Baba Stiltz& Okay Kaya
03.犬が通る / わがつま
04.Days Go By / Jana Horn
05.Alone Together / Saint Etienne
06.街灯(CHO CO PA CO CHO CO QUIN QUIN Remix) / ケイチ&ココナッツ・グルーヴ
07.Owari No Kisetsu / レイ ハラカミ
08.Calm Water / Matthew Herbert& Momoko Gill
09.Let Me Go / Daniel Caesar
10.Rubberneckers / Christian Lee Hutson
11.Girl (Alternative Version) / Alborg
12.異星人 / メコン
13.Should Have Known Better / Sufjan Stevens
14.Lover / Dot Allison
15.Its Not the Worst (Lali Puna Remix) / Two Lone Swordsmen
16.Change / Big Thief
17.Home / Cape Francis
18.Wild Roses / Bill Ryder-Jones
19.Depreston / Courtney Barnett



文・セレクター: 大久保祐子(音楽ライター/DJ)

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